最初に、この記事を書いている人間の立場をはっきりさせておきます。
私は社内SEだったことはありません。 山口翔太といいます。アクセンチュアに2017年から2021年まで在籍し、業界横断でデジタル変革を支援する部門にいました。つまり、社内SE・情報システム部門の方々に「発注される側」として4年間仕事をしてきた人間です。
この立場から書ける内容には偏りがあります。その代わり、「同じ社内SEという職名なのに、会社によって扱いも待遇もここまで違うのか」を、複数の会社を横断して見てきたという点では、当事者より広く見えているところがあります。その部分だけを書きます。
結論:社内SEの年収は、本人のスキルではほとんど決まらない
これがいちばん重要な話です。
社内SEの年収は、その人の技術力や実績よりも、「どの会社の、どの組織に所属しているか」でほぼ決まります。
同じくらいの力量の方が、片方は年収1,000万円台、片方は500万円台、ということが実際に起きます。本人の差ではなく、所属の差です。
理由は単純で、社内SEは自社の給与テーブルに乗るからです。IT職向けの特別な制度を持っている会社は多くありません。多くの会社では、社内SEは「その会社の総合職の一人」として処遇されます。 だから、メーカーならメーカーの、金融なら金融の水準になる。IT市場の相場は反映されません。
水準の目安
各社の公開情報や求人情報を集計すると、おおむねこのような分布です。幅の広さそのものが、この職種の特徴だと思って見てください。
所属 | 目安 |
|---|---|
中小企業の情シス(1〜3人体制) | 400〜550万円 |
中堅企業の情シス | 500〜700万円 |
大手事業会社の本体IT部門 | 650〜950万円 |
金融・商社・インフラ大手の本体 | 800〜1,200万円 |
大手のIT子会社 | 450〜750万円 |
外資系企業の日本法人IT | 700〜1,200万円 |
注目してほしいのは、「大手のIT子会社」と「大手の本体IT部門」の差です。同じグループで、同じシステムを扱っていても、親会社本体か子会社かで200〜400万円変わることがあります。 仕事の中身はほとんど同じなのに、です。
これは能力評価の結果ではなく、単に給与テーブルが別だからです。
なぜ上がらない構造になるのか
発注側の会議に出ていて、理由は3つあると感じていました。
① コストセンターとして扱われる
情シスは売上を作る部署ではありません。 予算は「コスト」として管理され、削減の対象になります。
ここで起きるのが、成果を出すほど評価しにくくなるという逆転です。システムが安定して動いていれば何も起きないので、成果が目に見えない。逆に、障害が起きたときだけ存在が可視化されます。減点でしか評価されない構造は、昇給の材料を作りにくい。
② 意思決定が外にある
社内SEの仕事は、他部署の要望を受けて動くことが中心になりがちです。「どの仕組みを入れるか」を決めるのは事業部門や経営、実際に作るのはベンダー。
そうすると、自分の判断が成果として説明できる場面が少なくなります。 昇進の材料は「何を決めたか」で作られるので、ここが弱いと上がりにくい。
③ 市場価値と社内評価が連動しない
これは発注側から見ていていちばん理不尽に感じた点です。
クラウド移行を自社で完遂した方が、社内では「予定どおりやった人」としか見られていない、ということが普通にありました。転職市場に出れば明確に評価される経験なのに、社内にその物差しがない。
逆に、年収が高い社内SEに共通していたこと
高い水準にいた方には、かなりはっきりした共通点がありました。3つあります。
① 事業側の言葉で話していた
「このシステムを入れると、販売管理の締め作業が3日短くなる」という言い方をする方は、必ず社内での立場が強かったです。技術の話を技術の言葉でしかしない方は、予算折衝で負けていました。
② 予算と業者の選定権を持っていた
権限の有無が、そのまま処遇に表れます。「決める側」にいる情シスと「受ける側」の情シスでは、別の職種と言っていいくらい違いました。
③ 会社そのものの利益率が高かった
身も蓋もない話ですが、これがいちばん大きい。儲かっている会社の情シスは高い。 本人の能力と関係なく、です。
年収を上げる方法は、3つしかない
以上を踏まえると、上げ方はかなり限られます。
方法① 会社を変える(同じ社内SEのまま)
もっとも確実で、もっとも早い方法です。 年収が所属で決まる以上、所属を変えるのが直接的な解決になります。
狙うべきは「利益率が高く、ITを自社でやると決めている会社」です。後者が重要で、ITを外に丸投げしている会社に行くと、待遇が良くても仕事が発注管理だけになります。
面接で確認すべき質問は、これが効きます。
直近3年で、内製に切り替えた領域はありますか
IT予算はどの部署が持っていますか
情シスの責任者は、経営会議に出ていますか
3つ目に「出ていない」と答える会社は、構造的に上がりにくいと考えていいと思います。
方法② IT子会社から本体へ、あるいは発注側の上流へ
さきほど書いたとおり、同じグループ内でも給与テーブルが違います。 グループ内公募制度がある会社なら、転職せずに水準を変えられる可能性があります。ここは意外と見落とされています。
方法③ 一度、コンサルやSIerを経由する
遠回りに見えて、いちばん上げ幅が大きい方法です。
理由は、コンサルファームの年収が職位で決まるからです。社内SEの経験は、ファーム側では「発注側の事情を知っている人材」として評価されます。特にERP導入やシステム刷新の案件では、情シス出身者がいないと話が進まない場面が本当に多い。
ただし、移った直後に年収が下がることがあります。 上位企業の社内SEから中位のファームに移る場合は特にそうです。稼働時間も確実に増えるので、時間あたりでは大きく落ちます。
それでも上げ幅が大きいと言えるのは、ファームは職位を上げれば上がる仕組みがあるからです。社内SEには、その仕組み自体がないことが多い。
仕事の中身が自分に合うかどうかは、先にこちらを読んでみてください。
SIerとどちらがいいか
社内SEを考えている方が、よく比較する相手です。発注側から見た印象を書きます。
社内SE | SIer | |
|---|---|---|
稼働 | 安定。落ち着いている | 案件次第で振れる |
年収の天井 | 所属で固定される | 職位と会社規模で決まる |
技術の選択 | 自社が使うものだけ | 案件ごとに変わる |
決める権限 | 会社による。ないことも多い | 基本的にない |
市場価値の伸び | ゆるやか | 案件次第 |
「決める権限があるかどうか」で選ぶのがいちばん外しません。 権限のない社内SEは、権限のないSIerとやっていることがほとんど変わらず、そのうえ転職市場で語れる案件経験が少なくなります。
SIer側の事情については別記事にまとめています。
「社内SEへの転職は難しい」と言われる理由
これもよく検索されているようなので触れておきます。難しいと言われるのは、募集の数が少ないからです。
情シスは人数が少ない部署です。大手でも数十人、中堅なら数人。欠員が出たときにしか募集が出ません。 しかも人気があるので、応募が集中します。
なので、「社内SEになる」ことを目的にすると、タイミング待ちになります。 発注側から見ていて感じたのは、上流の経験を持った人が有利だということです。要件定義から入った経験、ベンダー選定の経験、予算を組んだ経験——このあたりがあると、少ない椅子の競争で前に出られます。
つまり、SIerやコンサルで上流の経験を作ってから社内SEに入るというのが、遠回りに見えて堅いルートになります。
相談先について
社内SEからの転職は、相談先で結果が変わりやすいタイプの転職です。
理由は、社内SEの経験を「発注側として何を決めてきたか」に翻訳できるかどうかで評価が大きく変わるからです。ここを一緒に整理してくれる相手かどうかで、提示される職位が変わります。
よくある質問
Q. 社内SEの年収は将来上がりますか
会社によります。ただ、ITを内製に戻す動きがある会社では、情シスの処遇が見直される場面を実際に見ました。「自社でITをやる」と経営が決めている会社かどうかが分かれ目です。
Q. 資格を取れば上がりますか
資格手当の範囲では上がりますが、構造は変わりません。 年収を決めているのは所属と権限なので、そこが動かない限り大きくは変わらない、というのが正直なところです。
Q. 未経験から社内SEになれますか
なれますが、未経験可の募集は中小企業に多く、その場合は水準が低いところから始まります。 そこで経験を積んで移る、という順番になります。
Q. 一人情シスはやめたほうがいいですか
年収の面では不利なことが多いです。ただし、一人で全部やるので経験の幅は圧倒的に広くなります。 数年で次に移る前提なら、経験の作り方としては悪くありません。長くいる場所ではない、という認識は持っておいたほうがいいと思います。
まとめ
社内SEの年収について、押さえるべき点を整理します。
年収はスキルではなく所属で決まる。 ここを受け入れるところから始まる
同じグループでも、子会社と本体で200〜400万円違う
上げる方法は3つだけ。 会社を変える/本体に移る/一度ファームを経由する
「決める権限があるか」で会社を選ぶ。 権限がないと、経験も処遇も伸びない
迷うなら、上流の経験を先に作る。 それが社内SEの椅子の競争でも効く
発注される側にいた4年間で、優秀な情シスの方が正当に評価されていない場面を何度も見ました。その多くは本人の問題ではなく、その会社にその物差しがなかっただけです。
物差しのある場所に移るというのは、逃げではないと思います。
そのうえで、ファームを経由したあとにどこへ出ていくのかまで見ておくと、判断がぶれません。
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